精子の老化と顕微授精|枚方市樟葉 はやし鍼灸整骨院

2月6日放送のNHK「クローズアップ現代プラス」で、精子の老化をテーマにした番組が放送されました。

その中で、昨年発表された「欧米男性の精子の濃度が40年で半減した」ことなどが取り上げられ、不妊において約半分と言われている男性側の問題について特集されていました。


一般に、自然妊娠するうえで望ましいとされている精液は、精子の濃度が1500万/ml、運動率が40%以上とされています。

これは不妊治療における男性側の検査の指標にもされており、この値が不十分であれば治療のステップアップを促され、またIVF(高度生殖医療)に進まれていれば、採卵時の受精の段階で「゛精子があまり良くない゛ので顕微授精にしましょう」とドクターに提案されることになります。

このような男性側のいわゆる「濃度と運動率の問題」についてはこれまでにも繰り返し伝えられ、不妊治療を受診されている皆さんにも周知されています。


しかし、番組では濃度、運動率に続く新たなリスクファクターを取り上げていました。

それは「精子の老化によるDNA損傷」です。

男性の加齢とともに、見た目が元気な精子の中にDNAを損傷した精子が多数存在しているというのです。

この゛見た目が元気な゛というのが重要なポイントで、これは顕微鏡下で基準値以上の精子を確認するだけでは検査として不十分であることを意味しています。(もちろんスクリーニングとしては有用です)


獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科の岡田弘教授によると、濃度、運動率ともに大きな問題がない40代男性の精子をDNA検査したところ、DNA損傷率が30%を超えているケースもあったといいます。

DNA損傷率が30%を超えていれば自然妊娠は難しくなるそうで、これからは精子の濃度や運動率のみならず「質」を検定することが大事である、と結論付けていました。


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この番組の内容に関連して、、、


当院では、採卵に臨まれる患者さんに対して「私見ではありますが」と前置きしたうえで、なるべく「ふりかけ、胚盤胞、凍結で」とご提案しています。

中でも「ふりかけ」を推奨するのには理由があります。


これまで多くの患者さんが、様々な不妊専門病院で採卵されるのを見てきました。

ほとんどの方が最初はお薬を使って卵子が複数個採れる方法を選択されますが、その結果、10個採卵ができた、なんていうことも珍しくありません。

そんな中で、精子の状態が良好な場合、受精させる段階で多くのドクターが「5つは従来法(ふりかけ)、5つは顕微にしましょう」と提案します。

そして受精した胚を胚盤胞まで培養していくのですが、それぞれの方法で受精した2群のうち、顕微授精をしたグループは、結果的に凍結まで至らなかったり胚のグレードが悪くなる確率がどうも高いように感じているのです。


この度、あらためて先程の番組内容と照らし合わせてみると、合点がいく部分も出てきます。

そもそも顕微授精に用いられる精子というのは、胚培養士が「見た目が元気」で「動きのいい」精子をピックアップしたものです。

その精子が本当に優良なのか、ひいてはDNAに損傷があるかどうかまではもちろん分かりません。


一方、ふりかけによる受精では、卵子と精子が自然に近い状態で交わり、他の精子との激しい競争の中、何らかの理由で選ばれた精子が見事受精を勝ち取っているわけです。

生物の営みには未だ解明されていないことが山ほどあることを考えると、できるだけ自然に任せて見守る方が得策な気がしてなりません。


受精障害がある場合、また精液の状態が不良な場合は選択の余地はありませんが、特に精子の見た目が元気で、かつ過去に顕微授精をして思うように結果が出なかった方は、一度オールふりかけで臨んでみるのもありではないかと思います。

ただし、最終的にどのようにするかはドクターの意向が大きく反映されますので、なかなか私のご提案は通らないというのが実情ではあります。